3/I/2019


C-1  Apollon Sauroktonos of Cleveland  クリーヴランドのアポッローン・サウロクトノス




要約  Summary


1【現所在】

クリーヴランド美術館。Cleveland Museum of Art, Inv.no. 2004.30.a-c

 

2【発見】

20034月、スイス、ジュネーヴの古美術市場(Phoinix Ancient Art S.A.)に出現。学芸員のマイケル・ベネット(Michael Bennett)が見つけ、直ちにクリーヴランド美術館が購入した。

 伝えられる話では、西ドイツに住む弁護士エルンスト・ウルリヒ・ヴァルター(Ernst-Ulrich Walter)は1993-94年に、旧東ドイツ、ドレスデン郊外のロイトヴィッツ(Leutwitz)の邸宅を相続した。そこは少年時代を過ごしたところだった。第2次大戦末期にナチス・ドイツとロシア赤軍の激戦地となり、戦後はベルリンの壁が崩れる1989年以後まで訪れることができなかった。邸宅に帰り、少年時代には四阿(あずまや)に設置されていたこのブロンズ彫刻と再会したが、損傷を受けており、左前腕と樹は失われ,頭部も外れていた。彼はこれを18世紀の制作と思い込んでいて、安値で古美術商に委託した。

 

3【一括出土品】

「アポッローン・サウロクトノス」の部品以外なし。現存する部品は「頭部から右腕、トルソ、両脚」「左前腕」「爬虫類」「ブロンズの基板」。

 

4【寸法】

高さ150cm

 

5【科学的調査】

彫刻本体に属する部品の合金はすべて共通:Pb 3-4%。ブロンズの基板の合金は全く異なり、近現代の制作。海中にあった痕跡は全くない。

 

6【制作技術】

失蠟鑄造法。間接法。主な分鑄は9(1) 頭部。両目とも虹彩・瞳孔を失う。(2) トルソと右脚(支脚)。(3) 右足の前半分。甲の中程に楕円形鑄掛け熔接を適用している。(4) 左脚(遊脚)。(5) 右腕(前腕は失われた)。(6) 左前腕(樹に接していた肱下から)。(7) 失われた樹。(8-9) 爬虫類。

 

7【様式上の比較例】

古代文献(プリーニウス『博物誌』34.69-70)との照合によって、プラークシテレースが前340年頃に制作した「アポッローン・サウロクトノスἈπόλλων Σαυροκτόνος」(サウロスσαῦρος=爬虫類=蛇、蜥蜴、守宮の類=を殺すアポッローン)と結びつけることができる。「アポッローン・サウロクトノス」に基づくローマ・コピーは多数伝わるが、最も重要な比較例は次の3点。

(1) 大理石。Louvre, MA441. 高さ149cm。トカゲが大きい。

(2) 大理石。Musei Vaticani, Gibinetto delle maschere, 68.3651. 高さ153cm。トカゲは少し身をくねらせている。

(3) ブロンズ小像。Roma, Villa Albani, 952.

 その他、プラークシテレースの多くの作品と様式的に共通する。「休息するサテュロス」、「ディオニューソスを抱くヘルメース」(Olympia, Museum)、など。

 

8【碑文】

この遺品自体に碑文はない。

 

9【意味】

「アポッローン・サウロクトノス」は従来、ローマ・コピーの樹に表された爬虫類に基づいて「トカゲを殺すアポッローン」と呼ばれて来た。しかし今回出現したブロンズの爬虫類はトカゲ(lizard)ではなく、現実に存在するものの中ではヤモリ(gecko, wall lizard)が最も近いと思われる。ベネットは、これは自然界に実在する種類のものではなく「ピュートーを殺すアポッローン」という神話にふさわしい怪獣を創造したものと考えているが、どうだろうか。

 

10【総合的考察】

考えられる制作年代は

(i) プラークシテレースの制作した原作であれば前340年頃。3-4%程度の鉛を含む合金は前4世紀後半でもあり得る。

(ii) 特に足の指など、前4〜前3世紀のギリシア・ブロンズに比べて質が落ちると考えるなら前1世紀以降のローマ時代かも知れない。

(iii) いずれにせよおそらく古代ブロンズと思われるが、現代の贋作である疑いも消えない。

 

 私は前3世紀、エトルリア作と考える。根拠は、

(1) 海中に沈んでいた痕跡がなく、土中から発掘されたと推定される。おそらくギリシア本土の神域から掠奪されたものではない。

(2) 3-4%程度の鉛を含む合金は、エトルリア・ブロンズでは一般的である。年代順に、「ウジェントのゼウス」(前530520年頃、Pb 3.58%)、「トーディのララン」(前400年頃、11%)「アレッツォのキマイラ」(前400年頃、3%)、「アッリンガトーレ」(前100−前88年頃、5.4%)。例外は「アレッツォのメンルウァ」(前3世紀前半、1%以下)。

(3) 支脚側である右足中ほどに適用された楕円形鑄掛け熔接は、これが古代のものであることを証明している。

 

11【主要文献】

Martinez 2007: Jean-Luc Martinez, «L'Apollon Sauroctone», in Alain Pasquier, Jean-Luc Martinez (éd.), Praxitèle, Musée du Louvre, 23 mars -18 juin 2007, Paris 2007, 202-235.

Bennett 2013: Michael Bennett, Praxiteles: The Cleveland Apollo (Cleveland Masterwork Series 2), 2013.