17/XII/2019
【ヘーシオネーHesione神話の基本的な要素】
ヘーシオネーHesioneはトロイアー王ラーオメドーンLaomedonの娘。プリアモスPriamosの姉。テラモーンTelamonの妻、テウクロスTeukrosの母となる。
ラーオメドーンはヘーシオネーをポセイドーンPoseidonの送った海獣ケートスketosの生け贄とするが、ヘーラクレースHeraklesが海獣を倒し、彼女を救う。王が約束の報酬を拒んだのでヘーラクレースはトロイアーTroiaを掠奪し、王を殺し、テラモーンにヘーシオネーを報酬として与え、プリアモスをトロイアー王とする。
【文献による違い】
(1) 初期の言及はホメーロス(Hom. Il. 5.628-651; 7.452-453; 20.144-149; 21.442-457)、ヘーシオドス(ehoiai frg.165 Merkelbach/West)、ペイサンドロス(Peisandros: Bernabé PEGfrg.11)、ピンダロス(Pindaros, I.6.26-30; N.4.25-26)、ソフォクレース(Sophokles, Aias434-436; 1299-1303)。
(2) 最初の詳細な言及は前5世紀のヘッラーニーコス(Hellanikos, FGrH4 F26)。
アポッローンApollonとポセイドーンPoseidonはゼウスの命令で、ラーオメドーンLaomedonのためにトロイアーTroiaの城壁を築く。王が報酬を与えなかったためポセイドーンはケートスketosを送って平原を荒らさせる。王は神託によって、ケートスを宥めるためにはヘーシオネーHesioneを犠牲に供すべきことを知り、実行に移すと同時に、怪物を殺した者には自分の有する不死の馬たちを与えることを約束する。この馬はゼウスZeusがトロイアーの名祖トロースTrosに、ガニュメーデースGanymedesの補償として与えたものだった。通りかかったヘーラクレースは戦うことにし、守護神アテーナーAthenaは彼を守るために壁を築く。ヘーラクレースはケートスの腹の中に入り、これを殺す。しかしラーオメドーンは死すべき馬たちを与え、これに気付いたヘーラクレースはトロイアーを掠奪し、不死の馬たちを入手する。
(3) その他、後の作家たちであるが古文献を参照しているアポッロドーロス(Apollodoros, bibl.2.5.9; 2.6.4-6)、ディオドールス・シクルス(Diodorus Siculus, 4.32.42, 49)、ヒュギーヌス(Hyginus, fab.31; 89)なども詳細な話を伝えている。ヘッラーニーコスHellanikosにない、或いはそれとは異なる細部には次のものがある。
アポッローンは疫病を送った。トロイアー掠奪の際テラモーンTelamonはヘーラクレースを助け、トロイアーの城壁内に最初に入った功によりヘーシオネーを与えられた。ヘーシオネーは弟のポダルケースPodarkesを自分のヴェールによって贖い(πρίαμαι, πρίασθαι)、そのためポダルケースは以後プリアモスPriamosと呼ばれた。テウクロスはヘーシオネーとテラモーンの息子である。(以上アポッロドーロス)
ラーオメドーンを殺した後、ヘーラクレースはトロイアーの町をプリアモスに与えた。彼だけは父親に反対したからである。(ディオドールス、ヒュギーヌス)
ケートスの腹の中に3日間いたのでヘーラクレースは頭が禿げた。ラーオメドーンが娘を曝したのは、フォイノダーモスPhoinodamosに指示された人々が王を説得したため。(リュコフローン:Lykophron, 33-37; 470-478 et Schol.472)
身重のヘーシオネーはテラモーンから逃げて船でミーレートスMiletosに逃れ、そこの王アリーオーンArionに助けられた。生まれた子はトランベーロスTrambelos。(ツェツェースTzetzes=リュコフローン:Lykophron, 467)
(4) 失われた悲劇・悲劇には、前4世紀のアレクシスの喜劇「ヘーシオネー」(Alexis, Hesione=PCG)、前3世紀のナエウィウスの悲劇「アエシオナ」(Naevius, Aesiona=Gell.10.25.3)がある。
(5) 前5/4世紀のアルキッポスは喜劇「イクテュエス」(Archippos, Ichthyes)でヘーシオネー神話をパロディー化し、喜劇作家メランティオスMelanthiosをヘーシオネーに見立てて岩に縛り付けた。これはアリストファネースが「テスモフォリア祭を祀る女たち」(前411年上演、Aristophanes, Thesmophoriazousai)でエウリーピデースをアンドロメダーに見立てて岩に縛り付けた趣向を踏まえている。
ヘーシオネーの解放後、ヘーラクレースは一旦帰郷するか、再びアルゴー号遠征に出かけるかすることになっているので、再びトロイアーを訪れて掠奪するまでにはかなりの時が流れていることになる。
【文献の伝える、Hesione神話を表した美術作品】
(1) プリーニウス「博物誌」(Plin. nat. 35.114: LIMC Hesione 62)
アンティフィロスAntiphilosによる絵画。前330年頃。「有名な〈ヘーシオネー〉を描いた」。プリーニウスの時代には、ローマのおそらくオクタウィアOctaviaのポルティクスporticusにあった。
ニーキアース「アンドロメダー」を意識して描かれたに違いない。同様に、解放場面を選んでいたと想像される。これと同時代、前330年頃のアープーリア陶器に(LIMC Hesione 1)、ラーオメドーンとプリアモスがヘーラクレースにヘーシオネーを救ってくれるように懇願する場面が描かれているが、これはこの遺品にしか現れない例外的な場面である。
(2) プリーニウス「博物誌」(Plin. nat. 35.139: LIMC Hesione 44 =Herakles 2790 =Laomedon I 4)
アルテモーン(Artemon)による絵画。前300年頃。これもプリーニウスの時代には、ローマのおそらくオクタウィアのポルティクスにあった。「へーラクレースとポセイドーンと関わるラーオメドーンの物語を描いた」。
これはポンペイのデーキウス・オクターウィウス・クアルティオの家(別名マールクス・ロレイウス・ティブルティーヌスの家:Pompeii II.2.2, Casa di D. Octavius Quartio; M. Loreius Tiburtinus)のオエクス(oecus)東南壁フリーズに描かれた一連のヘーシオネー神話(LIMC Hesione 14, 56A, 57-59)の原作と推定されている。現存する場面は「ヘーラクレース+テラモーンによるヘーシオネーの救出(?)」(海岸の一部しか残らない:LIMC 14)「不死の馬に餌をやるヘーシオネー(?)」(56A)「ラーオメドーンとヘーラクレース+テラモーンとの馬たちをめぐる約束」(57)「ヘーラクレースによるラーオメドーン殺害」(58)「ヘーシオネーとテラモーンの結婚」(59)「ヘーラクレースによるプリアモス戴冠」(59a)。
(3) 小フィロストラトス「エイコネス」(Philostratos, Eikones, III.12: LIMC Hesione 50)
紀元3世紀のエクフラーシス。実在した絵画か架空のものか不明。
ケートス(頭部は犬ないし猪のそれのようである。半分は水の中)、ヘーラクレース(左手に弓、右手で矢を引き絞る。ライオンの毛皮と棍棒は足下に置く)、ヘーシオネー(岩に縛められている)、トロイアー人たち(城壁の上から見ている。その中にラーオメドーンもいるだろう)、の順に記述。ラーオメドーンは特定されず、テラモーンはいない。
ヘーラクレースとヘーシオネーについては、ローマ出土のストゥッコ浮彫が、フィロストラトスの記述に最も近い(LIMC Hesione 41)。ローマ、ポルタ・マッジョーレに近い「地下のバジリカ」(Porta Maggiore, Basilica Sotterranea)。紀元40-45年頃。中央に、後ろ向きのヘーラクレース。おそらく膝を突き、左に弓を持ち、右手で弦を引き絞って、左後方のケートスを射ようとする。ケートスの頭部は犬や猪よりも鯨に似ており、尻尾は細くて長い。右やや高いところに、両腕を拡げて金具で岩に繋がれたヘーシオネー。裸ではなく衣を着け、頭の上にヒーマティオンhimationを懸けている。前20-10年頃のガラス・カメオにも、左から、立って弓を引くヘーラクレース、ケートス(喉に矢が刺さっている)、坐ったヘーシオネー(下半身は着衣、上半身は失われた)が表されている(LIMC Hesione 37)。
フィロストラトスの「ヘーシオネー」で、ヘーシオネーのポーズとしてもう一つ可能性があるのは、後ろ手に縛られたタイプである。弓を引くヘーラクレースと組合わされた遺品には、カールスルーエにある紀元2/3世紀の砂岩浮彫がある(LIMC Hesione 33)。
弓を引くヘーラクレースと、両腕を拡げて繋がれたヘーシオネーとの組合せは、ローマ時代の遺品にしか見出されないため、前410年頃のおそらくゼウクシスによる絵画「ペルセウスとアンドロメダーの対話」(タイプ③:両腕を繋がれたアンドロメダー)と、前2世紀前半のペルガモンのゼウス大祭壇の浮彫「ヘーラクレースによるプロメーテウスの解放」(LIMC Prometheus 73: 弓を引くヘーラクレース、両腕を繋がれたプロメーテウス)に基づいて、ヘレニズム末期に作り出されたものかも知れない。となると、「アンドロメダーの図像史」と「ヘーシオネーの図像史」だけでなく、「プロメーテウスの図像史」も加えた三つ巴の関係を考察しなければならない。事実、アキッレウス・タティオスの「レウキッペーとクレイトフォーン」では「アンドロメダー」と「プロメーテウス」が組み合わされていた。
(Oakley 1997: LIMC, VIII, s.v. Hesione)
A(1)ヘーラクレース、ヘーシオネーの救助をラーオメドーンとプリアモスから懇願される
1* 陶器画、Apulia赤像式。前330年頃。(左から)Hesioneの侍女(扇、小箱)、Hesione(冠、ヴェール、首飾り、腕輪)、Laomedon(白髪、跪いてHeraklesに嘆願)、Eros(Heraklesを讃える)、Herakles(棍棒)、円柱(頂きにhydria)、Priamos(跪いてHeraklesに嘆願)、Troia人2人(Phryges=フリュギアー人)。
B(2-2A)ヘーラクレースとラーオメドーンの約束
2* エトルリアの鏡、ブロンズ。前325-300年頃。(左から)Laomedon(Lamtu。Herakles と握手)、Herakles(Hercle。裸、棍棒)、Hesione(Vilia。裸で母の膝に座る)、Hekabe(Echpa。HekabeはPriamosの妻であり、誤り)。下にKetos(海中から頭部を表す)。
2a* =add.1 陶器画、エトルリア製。Falisk。前4世紀第2四半期。(右から)男(右の把手の上)、Athena(武装)、Herakles(左手に棍棒。右手でἀποσκοπεῖν=遠くを見る仕種)、Hesione(嫁入り道具を収めた長持ちの上に座り、Heraklesを見遣る。身体は左を向くが、顔は右に向ける)、Hesioneの母(名は不詳。身体は左を向くが、顔は右に向ける。東方のかぶり物。左手でHeraklesの方におそらく食べ物を入れた容器を差し出す)、Eros(小箱を持つ)、Laomedon(身体は左を向くが、顔は右に向ける)、Telamon(左の把手の上。小箱を持ち、ἀποσκοπεῖνによってHeraklesと呼応する)。
C(3-56)ヘーシオネーの解放
3* 陶器画、Korinthos黒像式。前560年頃。(左から)4頭立て戦車(左向き。4頭のうち1頭は葦毛。馭者)、
Herakles(右向き。Ketos目掛けて多数の矢を射る)、Hesione(peplosを着る。黒と白の石を足許に積み上げ、Ketos目掛けて投げるか)、Ketos(岩壁から頭部だけを突き出す。ヘタウマ系)。──Heraklesとともに戦うHesioneは、
Perseusとともに戦うAndromeda(Andromedaのタイプ①、前6世紀第2四半期)と年代的にも一致している。
4 陶器画、Attika黒像式。前540年頃。(右から)Hesione(peplosとhimationを着、岩の上に座り、左手を頭上に置き、闘いを見る)、Herakles(左を向き、左手でKetosの舌を摑み、右手に持ったharpeで切ろうとする)、Ketos(大きく口を開ける)。──harpeを持っているがPerseusではなくHeraklesとされる。
5* 陶器画断片、Campania赤像式。前360-350年頃。(左から)Herakles(左手に弓を持つ)、Ketos(龍の形。左目に矢が刺さっている)。おそらくHesioneも表されていた。
6* 陶器画、エトルリア赤像式。前350-325年頃。(A面、左から)Herakles(剣を鞘から抜きつつKetosの口の中に入る)、Ketos(魚の頭部、多数のギザギザの歯。口を大きく開ける)。(B面、左から)Herakles(右手に棍棒を持ち、左腕でHesioneを抱く)、Hesione(岩に座り、Heraklesに身体を寄せ、右手を彼の肩に乗せ、左手で背後にhimationを拡げる)。
7* 浮彫、ブロンズ。エトルリア製卵形situla(容器)。前4世紀末。A面(左)は「Poseidonへの捧げ物」。(左から)男2人、男(覆いを掛けた大皿を肩に担ぐ)、祭壇、Amphitrite?(右手に卵形situla、左手に紡錘つむを持つ)、
Poseidon(=Nethuns。左手に三叉の矛)。B面は「Hesioneの解放」。(左から)Ketos(海中から魚の頭部を突き出す)、Hesione(岩に座る)、女、Laomedon(=Lamtun。王杖、花冠。Zeus=Tiniaとの解釈もある)、Herakles
(=Hercle。ライオンの毛皮、左手に棍棒。右手でLaomedonと握手)、Athena(=Menerva。aigis、槍、楯)、男(左手に棕櫚の枝?)。
8 =Herakles/Hercules [in peripheria occ.] 43 陶器断片。紀元3世紀。イギリス、Northamptonshire出土、Castor ware(カスター陶器)。(左から)Herakles(右向き。上げた右手に棍棒)、Hesione(正面を向く。裸、首飾り。両腕を繋がれている)。
9* ポンペイ壁画。Pompeii、おそらくVI区出土。現Napoli, MN 9443。紀元30-50年頃。画面は正方形。(前景)海中のKetos目掛けてTelamon(またはHerakles)が岩を投げようとする。左手に聳え立つ岩にHesioneは先ほどまで繋がれていたか。(中景)Herakles(裸、左手に棍棒)はHesione(裸)と話す。Hesioneの隣は侍女または母(着衣)。(遠景)Troiaの町の建造物。Ida山。
10* ポンペイ壁画。Pompeii, IX.1.22, Domus M. Epidi Sabini。紀元30-50年頃。(右から)Herakles(右手に棍棒、左手に弓)、Ketos(小さい。Heraklesの足許で死んでいる、矢が一本刺さっている)。Hesione(岩の上。上半身は裸、下半身はhimationで覆う。頭にヴェール、脚にsandala。足許に宝石箱とdiadema。右手はまだ繋がれている。Heraklesの方を見る)、Telamon(Hesioneを解放する。すでに左手は金具から外し、今右手の金具を金槌で壊そうとしている)。画面は縦長。手前から、海岸、岩、海、というセッティングか。
11* ポンペイ壁画。Pompeii, VIII.3.31, Casa di Pane。紀元30-50年頃。画面は横長(1:3)。(左から)海岸と岩。
TelamonまたはHerakles(Hesioneに近づき解放しようとする)、Hesione(まだ両手を岩に固定され、両腕を拡げている)。HesioneとHerakles(Hesioneは着衣、Heraklesは裸で、左手に棍棒を持つ。町の方に向かって歩く)、Troia人たち(Troiaの城門から走り出て二人を迎える)。
12 ポンペイ壁画。Pompeii, IX.2.16, Domus Deci [?] Pantherae。紀元40年頃。(右左不明)Herakles(棍棒と弓を持って立つ)、Hesione(繋がれた右前腕など身体の一部だけが残る)。
13* 壁画。現Malibu, Getty Museum, 72.AG.83。紀元50-75年頃。画面は円形。(前景、左から)岩と海岸。Ketosに石を投げて?攻撃する人々。そのうちの一人、Ketosに一番近く、大きく表されているのがおそらくTalamon。(中景、左から)HesioneとHerakles(Hesioneは着衣、Heraklesは裸)、Troiaの人々。そのうちHeraklesの前に立ち王杖を持っているのがおそらくLaomedon。(後景)Troiaの建物群。
14* =59a* ポンペイ壁画。Pompeii, II.2.2-5, Domus M. Lorei Tiburtini =II.2.2, Casa D. Octavius Quartio。紀元75年頃。数場面のうちの最初の場面(解放場面)。海岸の一部だけが残る。cf.44, 57-59。
15 壁画。Etruria, Brigetio。紀元2世紀中頃。(左から)Hesione(後ろ手に繋がれて裸で立つ)、Ketos(二人の間の下方で、矢が多数刺さって死んでいる)、Herakles(立ってHesioneの方を見る)。
16* モザイク。イタリア出土。現Roma, Villa Albani 696。紀元1世紀。画面は正方形。(前景)Ketos(池のような海から頭だけ出して死んでいる。槍か矢の柄が折れて刺さっている)。(中景、左から)Herakles(右手に棍棒、左手に弓と矢を持つ。身体は正面を向くが、眼差しはTelamonないしHesioneに向ける)、Hesione(Telamonに右手を取られて岩場から降りる。chiton, himation、ヴェール。背後に鏡など、足許に宝石箱などが置かれている)、Telamon(右手でHesioneの右手を取り、左手で槍を持つ)。遠景に町が描かれていたかどうか不明。
17* モザイク。チュニス出土(古代のKarthago, Acholla, Casa M. Asinius Rufus)。現Tunis, Musée Bardo。紀元184-185年。Heraklesを中心に、周りに9つの功業の相手を、1つずつ円の中に表している。(拡大図の左上から順に)ネメアーNemeaのライオン。ケーリュネイアKeryneiaの鹿。レルネーLerneのヒュドラーHydra。逸失?。ケートスKetos
(Hesioneを襲った。犬のような頭部、蛇のようにとぐろを巻く下半身)。エリュマントスErymanthosの猪。ステュンファーロスStymphalosの鳥。逸失3点?。Zeusの鷲(Prometheusを啄んだ)。牛飼いゲーリュオーンGeryon(胴体は一つ、その他は3人分を持つ怪物)。Herakles(棍棒、弓、ライオンの毛皮)。アケローオスAcheloos(Deianeiraを争った河神)。
18* モザイク。南フランス出土(Saint-Paul-Trois-Châteaux)。現Avignon, Mus. Calvet, G 285。紀元3世紀中頃。(左から)Herakles(岩の前に立つ。左手に棍棒。右手でHesioneの右手を取る)、Ketos(二人の間の狭い海で死んでいる)、Hesione(右手をHeraklesに取られ、頭上にヴェールを拡げる)。
19* =Andromeda 148 =Endymion 6 モザイク。シチリア出土(Piazza Armerina, Villa Erculia, in situ)。紀元4世紀初め。(左)Hesione(岩壁の前に立ち、右手でKetosを指さす)、Ketos(矢が刺さっている)。(右)エンデュミオーンEndymion(狩人。四角の基台の上で右手を突いて座り、左手を上げてセレーネーSelene=月に呼びかける)、犬(Endymionの獵犬。眠っている)。
20* 浮彫、大理石。Tivoli出土。紀元54-80年。(A面、左から)Hesioneの仮面、Heraklesの仮面。(B面)水中に
Ketos。すべて左向き。
21* 浮彫、大理石。Koblenz出土。紀元1世紀。(左から)樹木、Herakles(正面向き)、Telamon(着衣。右のHesioneの方に寄る)、Hesione(裸。両手を後ろ手に固定されている)。
22* 浮彫、石灰岩。葬礼関係。オーストリア、Hallstatt出土。紀元2世紀。(左から)Herakles(裸、右手で棍棒を振り翳す)、Hesione(裸、両腕を拡げて岩に固定されている)。二人の足許にKetos(犬のような頭部)。
23* =Hylas 34 浮彫、大理石。葬礼祭壇。イタリア出土(Piemonte, Acqui)。現Torino, Mus. Ant. 535。中央にHesione
(右脚だけ着衣。両腕を拡げ、岩に固定されている)。左の足許にKetos(犬の頭部)。右の足許に棍棒とライオンの毛皮。
24* =Andromeda 155 浮彫、大理石。墓石。オーストリア出土。紀元2世紀。(左から)Herakles(裸、右手で棍棒を振り翳す)、Hesione(下半身だけ着衣。両腕を上に上げて固定されている)。二人の脚の周りにKetosがとぐろを巻く。
25* 浮彫、砂岩。石棺。Köln出土。紀元2世紀末。(左から)Hesione(裸。両腕を固定されている)、Herakles(裸。右手で棍棒を、左手に石またはヘスペリデスHesperidesの林檎を持つ)、Ketos(頭部が下で、尻尾が上に伸びている)。
26 浮彫。祭壇。フランス出土(Yzeures-sur-Creux, Minerva神殿)。紀元2世紀末/3世紀初め。(左から)Hesione(岩の上に立ち、両手を後ろ手に固定されている)、Ketos(二人の間、下方)、Herakles(背面観。右手で棍棒を振り翳す)。
27* =Herakles/Hercules [in peripheria occ.] 44 浮彫、石。葬礼関係。イギリス、Chester出土。紀元2/3世紀。(左から)Hesione(正面向き、裸。後ろ手に繋がれている)、Herakles(裸。上げた右手に棍棒、左手にライオンの毛皮)。右端のKetosは失われた。
28* 浮彫。葬礼関係。ハンガリー、Intercisa出土。現Budapest, Mus. Nat. Hongrois 66.1906.1。紀元2/3世紀。(左から)Ketos(下方からHesioneに向かって頭を突き出す)、Hesione(岩に両手を繋がれている)、Herakles(右手で棍棒を振り上げる)。
29* 浮彫、石。ドイツ、Bierbach出土。現Speyer, Histor. Mus. 135。紀元2/3世紀。(左から)Herakles(跪く。身体は左に向かうが顔は右を向く。右手に棍棒)、Ketos(痕跡しか残らない)、Hesione(正面を向き、両腕を拡げて固定されている。背後にhimation、右に鏡)。
30* 浮彫、石。ドイツ、Trier出土。現Trier。紀元2/3世紀。(左から)Herakles(立って右を向くき、Hesioneの方に左手を伸ばす。右手に棍棒)、Ketos(二人の間)、Hesione(左を向き、後ろ手に固定されている)。
31 浮彫、石。L. Serverinius Victorinusによる奉納板。ドイツ、Munchhausen出土。紀元2/3世紀。(左から)Hesione
(正面向き。両手を上げて固定されている)、Herakles(左を向き、右手をHesioneの方に伸ばす)。
32* 浮彫、砂岩。現Croatia, Zagreb, Arch. Mus.。紀元2/3世紀。(左から)Herakles(右手に持った棍棒を肩に乗せる)、Hesione(着衣。両手を身体の前で握っているが、左腕を岩に固定されているか)。
33* 浮彫、石。現Karlsruhe, Bad. Landesmus. C29。紀元2/3世紀。Herakles(弓を引く)、Ketos(二人と同じくらいの大きさ)、Hesione(裸。後ろ手に縛られている)。Philostratos, Hesioneの比較例。
34 浮彫断片、石。南フランス、Narbonne出土。紀元2/3世紀。(左から)Herakles(脚の下部。ライオンの毛皮)、Hesione(片足の下部。着衣)。背景は岩。
35 浮彫、石。石棺。現在は失われた。(左から)Herakles(Ketosに向けて弓を引く)、Ketos(Heraklesの右下に頭部が見える)、Eros?(小さな人物。左手に枝を持つ)、Telamon(一部だけが残る。兵士の姿。右向きだが、顔は後ろを振り返る)、Hesione(chiton。正面向きに岩に固定されている。顔は左を向く)。
36 浮彫、大理石。円盤。現フランス西部、Vienne。(左から?)Herakles(右手に棍棒を持ち、左手をHesioneの方に伸ばす)、Hesione(右手を岩に縛められて立つ)。
37* 彫石断片、青ガラス・カメオ。現Berlin, Staatl. Mus. FG 10270。前20/前10年頃。(左から)Herakles(立って弓を引く)、Ketos(胴体が長い。喉に矢が刺さっている)、Hesione(坐る。下半身は着衣、上半身は失われた)。
Philostratos, Hesioneの比較例。
38 貨幣。AE, sestertius。Ilion, Septimius Severus発行、紀元193-211年。(左から)Herakles(右向きに立つ。右手に持った棍棒で身体を支える)、Ketos(下、海中)、Hesione(塔の前に立つ。着衣)。
39* 浮彫。現Paris, Louvre, S 1512, Collection Campana。紀元2世紀前半。(左から)Ketos(波で海を表す。槍で胴部を串刺しにされている)、Herakles(槍を構える)、Telamon(弓を引く)、Hesione(身体は右向き、顔は左向き。前に伸ばした両手を岩に繋がれている。chiton, himation)。
40 ランプ。現Tunis, Musée Bardo, 803。「Hesioneを解放するHerakles」。
41* 浮彫、ストゥッコ。ローマ、ポルタ・マッジョーレに近い「地下のバジリカ」(Roma, Porta Maggiore, Basilica Sotterranea)出土。紀元40-45年頃。保存状態はよくない。中央に、後ろ向きのHerakles。おそらく膝を突き、左に弓を持ち、右手で弦を引き絞って、左後方のKetosを射ようとする。Ketosの頭部は犬や猪よりも鯨に似ており、尻尾は細くて長い。右やや高いところに、両腕を拡げて金具で岩に繋がれたHesione。裸ではなく衣を着け、頭の上にhimationを懸けている。右下に宝石箱。Philostratos, Hesioneの記述に最も近い。
(Hesione/Heraklesの可能性)
42* 彫石。赤縞瑪瑙のカメオ(sardonyx cameo)。Alexasの署名。現London, BM 3553。前1世紀後半。Ketos(左向き)。
43* 陶器画、Caere黒像式(エトルリア、Caeretan Hydria)。イタリア出土?。現Paris, S. Niarchos Collection(以前は
Hirschmann Collection)。(左から)Ketos(魚が基本。右を向いて大きく口を開ける。多数の歯が明確)、Perseus
(左手にharpe、右手に石)。Ketosの周りをアザラシ、タコ、イルカ2頭が泳いでいる。4と合わせて考察する必要がある。
44 文献。プリーニウス「博物誌」(Plin. nat. 35.139)。アルテモーンArtemonによる絵画。前300年頃。「HeraklesとPoseidonと関わるLaomedonの物語を描いた」。Pliniusの時代には、ローマのおそらく「OctaviaのPorticus」にあった。no.14, 57-59の原作と推定されている。
45 浮彫断片、大理石。Pergamon出土。現Berlin, Staatl. Mus.。前3/前2世紀。Ketosの頭部と上顎の一部だけが残る。
46* =Herakles 1712* 浮彫、大理石フリーズ。Delphoi、劇場出土。前1/紀元1世紀。Heraklesの十二功業。(左から)(1) Amazon, Hippolyte。(2) Hesperidesの林檎。(3) Kerberos。(4) NemeaのLion。(5) Kentauros (Nettos?)。(6) Ketos(海蛇の形)、Herakles(左手で首を摑み、右手で棍棒を構える)。Hesioneは表されていない。(7) Antaios。(8) 不詳。(9) Geryon。(10) Diomedesの馬。(11) 不詳。(12) Stymphalosの鳥。
47* エトルリアの鏡。現Perugia, Mus. Naz.。前3世紀。(左から)Ketos(中程の高さに頭部)、Herakles?-Telamon?(Hesioneの右手を取り、肩に衣を掛ける)、Hesione(首飾り、腕輪、被り物)。
48* エトルリアの鏡。現所在不明。前3世紀。(左から)イルカの頭部、Hesione、Herakles(左手で持った棍棒を左肩に乗せ、右手でHesioneの脇腹を抱き、Ketosの上に右膝を乗せる)、Ketos、女。
49* ポンペイ壁画。Pompeii, IX.8.6, Casa del Centenario, Domus Auli Rusti Veri。紀元70-79年頃。(近景、左から)
Herakles?(海中から突き出した岩の上の木に乗って、右手に持った岩をKetos目掛けて投げようとする。左手に
lagobolon? 棍棒?)、Ketos+Hesione?(海中で、海蛇タイプのKetosに女が巻かれている)。(中景)埠頭に男が二人駆けつける。(背景)建築群。
50 文献。フィロストラトス「エイコネス」(Philostratos, Eikones, III.12, Hesione)。
51 浮彫、砂岩。葬礼用。オーストリア、Neunkirchen出土。紀元2世紀。Hesione(裸で立ち、岩に後ろ手に固定されている)。
52 浮彫断片。葬礼関係。ハンガリー、Intercisa出土。現Budapest, Mus. Nat. Hongrois 97/1913。紀元2/3世紀。上半身裸の女の頭部と両腕は大部分失われたが、左腕が上方に繋がれている。
(おそらくHesione/Heraklesではない)
53* =Andromeda 31 ポンペイ壁画。現Napoli, Mus. Naz. 9477。紀元60-79年頃。(近景、左から)Nymphe? (左へ逃げる)、Perseus?-Herakles(右のKetosに向けて、右手に棍棒を構える)、Ketos(鰐のよう)。(中景)Andromeda?-Hesione?(着衣。中央の岩に両腕を拡げて繋がれている)。海岸。岩山。左右に枯れ木が数本。(後景)山。
Perseus/Andromeda説が多数派。cf. R. Merkelbach, RM 101, 1994, 85Abb.1.
54 浮彫。碑文角柱。リビア、Djemila (Cuicul) 出土。おそらく紀元237年。(上段)Herakles(右手の棍棒に寄り掛かって立つ)。(下段、左から)Hesione?(下半身着衣)、Herakles? Telamon?(女を連れて歩く)。
55 浮彫、大理石。角柱。Leptis Magna, Foro Severiano, Basilica出土。紀元197-216年。(左から)Hesione?(正面向きに立つ。chitonを着、himationの端を頭上に掛ける)、Herakles?(座って女の方を見る)。
56 浮彫、石灰岩。石棺。Köln出土。失われた。紀元3世紀か。Herakles(左肩に棍棒を乗せる)が女を連れて歩く。
Alkestisの可能性が大きい。
D(57)馬を渡すようラーオメドーンに要求するヘーラクレース
57* ポンペイ壁画。デーキウス・オクターウィウス・クアルティオの家(別名マールクス・ロレイウス・ティブルティーヌスの家(Pompeii II.2.2, Casa di D. Octavius Quartio; M. Loreius Tiburtinus)のオエクス(oecus)東南壁フリーズに、一連のヘーシオネー神話が書かれている。現存する場面は「不死の馬に餌をやるヘーシオネー(?)」(56A)「ヘーラクレース・テラモーンによるヘーシオネーの救出(?)」(海岸の一部しか残らない:14)「ラーオメドーンとヘーラクレース・テラモーンとの馬たちをめぐる約束」(57)「ヘーラクレースによるラーオメドーン殺害」(58)「ヘーシオネーとテラモーンの結婚」(59)「ヘーラクレースによるプリアモス戴冠」(59a)。
(左から)Herakles(正面を向いて立つ)、Telamon?(王の方に近づきつつ、右手を差し出して嘆願する)、馬の頭部(上方、窓から見える)、Hesione(peplos、ヴェール)、Laomedon(玉座に座る。フリュギアー帽)、Troia人3人(王の背後に立つ)。
E(58)ラーオメドーンを罰するヘーラクレース
58* 同。「ヘーラクレースによるラーオメドーン殺害」。(左から)Herakles(4分の3背面観。右手で棍棒を振り上げて王を殺そうとする)、Hesione(peplos、ヴェール。割って入る)、Laomedon(立ち上がる。フリュギアー帽)、
Troia人たち(逃げ惑う)。
F(59)ヘーシオネーとテラモーンの結婚
59* 同。「ヘーシオネーとテラモーンの結婚」。(左から)Hesione(peplos、ヴェール)、神官(二人の間に立つ)、Telamon(Hesioneの右手首を取る=結婚の仕種)、Herakles(4分の3背面観。弓の具合を調べている)。
G(59a-61)ヘーシオネー、ヘーラクレース、若いプリアモス
59a* 同。「ヘーラクレースによるプリアモス戴冠」。(左から)Troia人、Priamos(少年。Heraklesによってフリュギアー帽を戴冠される。左手に王笏)、Herakles(座る)。
60* ポンペイ壁画。Pompeii, VI.10.11 (24), Casa del Vaviglio. 紀元54-68年。(左から)Hesione(chiton, himation、ヴェール。弟を助ける仕種)、Priamos(少年。Heraklesの方に両手を差し出す)、Herakles(玉座に座る。玉座に棍棒が立て掛けてある)。
61* ポンペイ壁画。Pompeii, V.2.i (q), House of the Silver Wedding. 紀元70-79年頃。(左から)Hesione(着衣)、侍女、Priamos(少年。Heraklesの方に両手を差し出す)、Herakles(玉座に座り、右手でPriamosの方に花冠を差し出す)、Troia人2人(背後に立つ)。
H(62)場面不詳
62 文献。プリーニウス「博物誌」(Plin. naturalis historia, 35.114)。アンティフィロスAntiphilosによる絵画。前330年頃。「有名な〈ヘーシオネー〉を描いた」。プリーニウスの時代には、ローマのおそらくオクタウィアのポルティクスにあった。おそらく戦闘・解放場面。
I(63)サテュロス劇「ヘーシオネー」または「オンファレー」の楽屋
63* 陶器画、Attika赤像式。南イタリア、Ruvo出土。現Napoli, Mus. Naz. H 3240。前400年頃、Pronomosの画家。(上段左から)Satyros役俳優二人、Laomedon? 役俳優、Dionysos、Ariadne(二人は寝椅子に座る)、Himeros(有翼。跪いて女役俳優に冠を差し出す)、女役俳優(Paidia? Hesione? Omphale? [Simon]。寝椅子の端に座る)、Herakles役俳優(左手に棍棒)、Papposilenos役俳優。(下段左から)少年、Satyros役俳優、Pronomos(aulos奏者)、Charinos(lyra奏者)、Satyros役俳優、Demetrios(劇詩人)。
参考図:「プロメーテウスの解放」を表した遺品で、弓を引くヘーラクレースを伴うもの。
Prometheus 59*
Prometheus 60*
Prometheus 67*
Prometheus 69*
Prometheus 70*
Prometheus 71*
Prometheus 72bis*
Prometheus 73* 浮彫。Pergamon、Zeus大祭壇の「HeraklesによるPrometheusの解放」。前2世紀前半。弓を引く
Herakles、両腕を繋がれたPrometheus。
解放場面
Prometheus 77*
Prometheus 78a*
Prometheus 79*
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