ノッシス Nossis は前4世紀末~前3世紀初めの詩人。
故郷ロクロイ・エピゼフュリオイ Lokroi Epizephyrioi(現Calabria, Locri Epizefiri)では彼女を讃えて毎年6月に A Nosside, voce poetica contemporanea(Nossis に献ぐ同時代の詩の声)が開催される。今年は6/27(土)第57回。
Romaで出土し現在Museo Nazionale Romano, Palazzo Massimo にある「Trono di Ludovisi ルドヴィージの玉座」はもとLokroi Epizephyrioi の Aphrodite 神殿の主室にあった Aphrodite 顕現劇のための衝立て。
Anthologia Palatina に収録された12作がいまに伝わる。
Anth. Pal. 5.170, 6.132, 265, 273(?), 275, 353, 354, 7.414, 7.718, 9.332, 604, 605.
沓掛良彦『ギリシアの抒情詩人たち』2018, pp. 474-477
沓掛良彦『ギリシア詞華集 1~3』2015~2016
Anthologia Palatina 5.170
「愛よりも甘美なるもの、何物もなし。なべてのよろこばしきものとても
愛にはおよばず。われはかの甘き蜜さへ苦く覚えて吐き出しぬ」。
かく言ふはノッシス Νοσσίς。キュプリス Κύπρις の愛享けしことなき人は
つひには知らじ、かの女神の花薔薇のいかなるものなるかを。
*「」部分はHesiodos, Theogonia, 96-97を踏まえる。「ムーサらの愛でたまふ者は幸ひなれ、その唇よりは甘き歌が流れ出る」。
*薔薇は愛の象徴。ここではノッシス自身の詩を指す。
*愛の詩人としての信条宣言。前280-270年頃に出たと推定される詩集の冒頭に置かれていたとも推定される。サッポー Σαπφώ の「でも私は言はう、人が愛するものこそが最も美しいのだと」(Lobel-Page 16)を踏まえる。
7.718
見知らぬ人よ、カリス Χάρις らが華なるサッポー Σαπφώ を火と燃え立たせし
歌舞うるはしき町ミュティレーネー Μυτιλήνη へ船旅することあらば伝へてよ、
ロクロイ Λοκροί の町こそはムーサイ Μοῦσαι に愛でられ、かの歌姫にも並ぶ詩才恵まれし
歌人を生みぬと。してその名はノッシス Νοσσίς と。いざ行きたまへ。
*人を送る詩プロペンプティコン προπεμπτικόν の形式を取った自らの墓碑銘。詩集の最後に置いたとも推定されている。
6.132
ブレッティアー Βρεττία の者ら、戦闘に敏捷なロクリスΛοκρίς の軍勢に敗れ、
惨めにもその肩より武具をば投げ捨てたり。
そはロクリスの軍勢の武勇を讃え、神々の神殿に掛けられてあり、
投げ捨てし卑怯者らの腕を恋ふることもなくして。
*土着民と植民市との間の戦争における勝利。
*アルキロコス Ἀρχίλοχος の詩への批判とも解せる。彼は傭兵として戦い、楯を捨てて逃げた。
*奉納品。
6.265
屢々天上より降りたまひ薫るリカニオンの神殿を
優しく見守りたまふ畏きヘーラー Ἥρᾱ 様、この亜麻布の衣裳を
ご嘉納下さいませ、これはクレオカの娘なる気高きテウピリスが
その娘ノッシスと織つたもの。
*ブレッティアー=ブルッティウム Bruttium の岬には名高いヘーラー・リカニア神殿があった。
*奉納品。
6.273ノッシス風
デーロス Δῆλος 島と愛らしいオルテュギアー Ὀρτυγίᾱ 島を領したまふアルテミス Ἄρτεμις 様、
弓矢をカリスたちの胸に置かせたまひ
イノポスの流れでお身体を浄めたまひてわが館へとましまして
アルケティスをお産の苦しみより救はせたまへ。
*オルテュギアー島=デーロス島の古名。
*「弓矢を・・」=穏やかな平和な心で。
6.275
サミュタが頭から外して捧げたこのへアネットを
アフロディーテー様はきつと喜んでご嘉納下さいませう、
とても手の込んだできのものですし、女神様が美しいアドーニス Ἄδωνις に
塗りたまうたのと同じネクタル Νέκταρ の甘い香りがしていますので。
*奉納品。
6.353
これはまさにメリンナそのひと、あの子の愛らしい顔が
私たちを優しく見つめている様子をご覧なさい。
本当にあの子は何から何まで母親そつくりなんでせう。
子が生みの親に似るのはとてもいいこと。
*肖像画をテーマとした事物描写詩/エピディクティカ?
6.354
この肖像画を遠くから見ただけで、その美しさと堂々たる姿で
これがサバイティスだと分かります。
ご覧なさい。私が間近に見たいのはあの人の賢さと
優しげな様子。幸せな夫人よ、お健やかにましませ。
*肖像画。
7.414
ここをお通りなさるときは、からからと笑つてうち過ぎたまへや、
わしに愛想のいい言葉の一つもかけて。わしはシュラークーサイ Συράκουσαι 生まれのリントン、
ムーサらの慎ましい歌鶯/小夜啼鳥。とは申せ、悲劇を巧みにもぢつて
わしなりのキヅタの冠編み上げることはしましたぞ。
*リントンはノッシスと同時代、実際にはタラース Τάρᾱς 出身。悲劇のパロディを書いた悲劇作者。
9.332
いざわたしたち神殿に詣でてアフロディーテーのお像を拝し、
黄金もて巧みに作られたそのさまを見ませうよ。
これを建てたのはポリュアルキス、その美しい身体から
多くの財貨を稼ぎ出だして。
*コリントス Κόρινθος のアフロディーテー神殿に神婢として仕えていた遊女が自費で建てたアフロディーテー像を詠う。作者がロクリスの女たちに呼びかける。
*奉納品。
9.604
この絵に描かれてゐるのはタウマレタ。あの人の物腰や
優しい眼差しなどが何と見事に描かれてゐることでせう。
この絵を見たら家で飼はれてゐる小さな犬でさへも尻尾を振るでせう、
家の女主人を目にしてゐると思つて。
*肖像画。
9.605
カローが黄金なす髪のアフロディーテーの館に
どこから見ても彼女にそつくりの肖像画を奉納しました。
何と優しい姿で彼女は立つてゐることでせう。ご覧なさい、
何と優雅な美しさでせう。非の打ちどころなき生き方をしてゐる人ですもの。
*肖像画。奉納品。





