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ローマ絵画における風景画

 

■ローマ絵画における風景画(前1−紀元1世紀)

 

(1)「風景、風景画」の定義

 

topia (paysage, landscape, Landschaft) 風景、風景画。広く開けた風景。自然、自然の中の人・動物。

hortus 庭園(野菜畑、菜園ではない)。閉じた空間。

paradeisos オリエントの狩獵の場。野生の動物が囲われている。動物画。

 

(2) 古代文献において「風景、風景画」の語の意味するもの、内容、典型例

 

Gr: τόπος(場所)

Lat: topia(風景、風景画)←(τόπιον)τόπος

 

ヘレニズム時代に初めて、自然を描いた、および人物のいる自然を描いた装飾絵画を「風景画 topia」という語で表すようになった。(Rouveret 2004, 332; 2006; Croisille 2010, 14

 

ウィトルーウィウス(前30年頃)、プリーニウス(70-75年頃)、フィロストラトス(3世紀前半)

Vitruvius, De architectura: VII.5.2(ポンペイ第Ⅱ様式); V.6.9(サテュロス劇場の装飾)

Plinius, Naturalis Historia: 35.116-117(ストゥディウス)

Philostratos, Eikones, I.12-13(ボスフォロス); II.17(島々)

 

ウィトルーウィウス『建築について』第7巻、5

VII.5.1-3(森田 1979, pp.190-191。ところどころ訳語を改めた)

 

VII.5.1《その他の部屋、すなわち春の部屋、秋の部屋、夏の部屋、アートリウムやペリステューリウムでは確実なものから描く写実的な絵画方式が昔から定められている。というのは、存在するもの或いは存在しうるものの姿、例えば人間、家屋、船、その他諸々の輪郭や実体から真似て描かれるためのモデルが採用されるものの姿、が絵になるからである。だから、初めて壁画に道を開いた昔の人たちは、まず大理石の面のいろいろな模様やその配列を模倣し、次いでコローナや黄土色の隔て縁のそれぞれ変わった配列を模倣した。》(ポンペイ第Ⅰ様式に対応)

 

VII.5.2《その後、建物の形や柱と破風の凹凸をさえ模写するようになったが、エクセドラのような開放的な場所には、壁面が大きいので、悲劇風、喜劇風、或いは諷刺劇風にスカエナの表面を写し、また遊歩廊(ambulationes)を、その長さが十分なので、各地の確実な特徴を捉えた景色を表現したいろいろな風景画(topiaで飾った。すなわち、港(portus)、半島(promuntoria)、海岸(litora)、川(flumina)、泉(fontes)、水路/海峡(euripi)、神域(fana)、聖なる森(luci)、山(montes)、家畜(pecora)、牧人(pastoresが描かれ、またある場所では神々の像或いは物語の整然たる展開、さてはトローヤ戦争或いはウリクセス/オデュッセウスの諸国遍歴(Vlixis errationes per topia、その他これらと類似の領域で自然界が生み出した事物を内容とする大絵画(megalographia: 人物が大きく描かれた絵)が描かれる。》(ポンペイ第Ⅱ様式に対応)

 

VII.5.3《ところが、確実なものを手本とした絵が今は不当にも良しとされない。というのは、限界の確かなものから採られた確実な姿よりもむしろ怪奇なものが壁画に描かれるからである。実に、円柱の代わりの葦の茎が立てられ、破風の代わりに縮れ葉と渦巻きのある条溝装飾が作られ、同じく、燭台は小神殿の雛形を支え、この雛形の破風の上には多くの柔らかい細い茎が、その中に不合理にも座っている小像やさらには人頭とか獣頭とかの半身像を持って、根から渦巻きを作って生えている。》(ポンペイ第Ⅲ様式に対応)

 

V.6.9(森田 p.131

《・・・スカエナ(劇場の書き割り)の種類は三つある。一つは悲劇の、他は喜劇の、第三は諷刺劇のスカエナと呼ばれるもの。これらの装飾は手法において互いに異なり別々である。悲劇のスカエナは円柱や破風や彫像やその他王者に属するもので構成され、喜劇のスカエナは詩人の邸宅や露台の外観また一般建物の手法を模して配置された窓の情景を持ち、諷刺劇のスカエナは樹木(arboribus)や洞窟(speluncis)や山(montibus)やその他庭師の作る景色(topeodi: τόπος)にかたどった田舎の風物(agrestibus rebus)で装飾される。

 

プリーニウス『博物誌』第35

35.116-117 (羽田訳、Croisille 1985, pp.85-86)

 

35.116《神帝アウグストゥスの時代に生きたストゥーディウスStudiusにも相応の評価を与えなければならない。彼は部屋の仕切り壁に魅力的な仕方で絵を描くことを着想した最初の人となった。各人の好みに応じて、田舎の別荘や港湾や、聖なる杜、森林、丘陵、魚のいる池、運河、河川、海岸といった風景モチーフ(uillas et portus ac topiaria opera, lucos, nemora, colles, piscinas, euripos, amnes, litora)を描き、そこに徒歩で或いは船に乗って行き交う人々の様々な姿を配置した。地上で驢馬や車に乗って田舎の別荘に向かう姿や、さらには魚を釣り鳥を捕え動物を狩り果実を収穫する姿を。》

 

35.117《ストゥーディウスの作品のうち最もよく知られた壁画では、目指す田舎の別荘の近くで男たちが女たちを背負って沼地を横切っていて、よろめいて女たちを怖がらせている様子を始め、この画家の洗練されたユーモアの発露である表情豊かな細部が見られる。戸外に面した壁面に非常に魅力的な海辺の町々をごく僅かな代金で描くことを始めたのもこの画家である。》

 

35.118《とはいえ藝術的栄光は、板絵を描いた画家(qui tabulas pinxere)にこそ与えられる。・・》

 

(3) 現存遺品

 ほとんどがローマと、ポンペイ Pompeii、エルコラーノ=ヘルクラーネウム Herculaneum、ボスコトレカーセ Boscotrecase など紀元79年のウェスウィウス火山の噴火で埋没した地域から出土した壁画。前1世紀〜紀元1世紀。

 

ポンペイ絵画の4様式──上記ウィトルーウィウスの記述参照。

風景画──港湾風景、聖なる杜が多い。上記プリーニウスの記述参照。

神話的風景画──「ダイダロス Daidalos とイーカロス Ikaros」「アクタイオーン Aktaion」「ディルケー Dirke に対する懲罰」「ペルセウスとアンドロメダー」「ポリュフェーモス Polyphemos とガラテイア Galateia」・・

庭園画──ローマ「リウィアの家 Casa di Livia」(初代皇帝アウグストゥスの妻)の壁画。

動物画、狩獵図──オリエントのパラデイソス paradeisos の伝統。

ナイルの風景、模擬海戦 naumachia

 

15世紀エーゲ海絵画──テーラ島、クレータ島クノッソス。

オリエント、エジプト、ギリシア、エトルーリア──幾何学遠近法の意識は前5世紀ギリシアで生まれる(アガタルコスの舞台背景画)。